猫がゴロゴロ音を出す本当の理由とその効果

猫を飼っている方なら誰もが経験したことがある、あの心地よい「ゴロゴロ音」。愛猫が膝の上で丸くなり、喉を震わせながら発するこの神秘的な音には、実は私たちが想像する以上に深い意味と驚くべき効果が隠されています。今回は、最新の科学的研究をもとに、猫のゴロゴロ音の謎に迫ってみましょう。

ゴロゴロ音の仕組み：ついに明かされた謎

長い間、猫がどのようにしてゴロゴロ音を出しているのかは科学者たちの間でも謎でした1。「血流が渦巻くことで音が出ている」「声帯近くにある仮声帯の振動によって出している」「横隔膜と咽頭の筋肉が交互に動くため」「神経によって引き起こされる筋肉の収縮」など、さまざまな説が提唱されていました1。

しかし、2023年にオーストリアのウィーン大学による画期的な実験により、この謎がついに解明されました13。研究では、末期疾患により安楽死させなければならなかった8匹の家猫から喉頭のサンプルを摘出し、詳細な実験を行いました3。その結果、猫のゴロゴロ音は咽頭で呼吸流量が調整されることで出されており、呼吸運動以外の血流や仮声帯、神経、筋肉の収縮などは直接的に関係ないことが判明しました1。

具体的には、猫は喉頭筋を使って声帯を1秒間に25～150回振動させており、呼吸をするたびに空気が声帯を通過してゴロゴロ音を作り出しています2。また、猫の声帯には周波数を下げる役割を果たす結合組織があり、これによってゴロゴロ音が低周波になることも明らかになりました1。

猫がゴロゴロ音を出す本当の理由

幸せとリラックスの表現

多くの人が想像する通り、猫は温かくてくつろぎ、満足しているときにゴロゴロ音を出します2。飼い主さんになでられているときや、仲の良い同居猫とくっついてリラックスしているとき、柔らかい毛布の上で「ふみふみ」をしているときなどがこれに当たります7。これらの場面では、「大好き」「うれしい」「満足」といった好意的な感情を表現しています7。

自分を落ち着かせるためのセルフケア

興味深いことに、猫は動物病院での受診中や出産中など、大きなストレスや痛みを感じているときにもゴロゴロ音を出します2。現在、科学者たちは猫が自分を落ち着かせるためにゴロゴロ音を発していると考えています2。ゴロゴロという音が猫の体内で作り出す低周波振動には、猫の呼吸を安定させ緊張をほぐす効果があるのです2。

コミュニケーションツールとしての役割

ゴロゴロ音は本来、生後まもない子猫が母猫とコミュニケーションを取るための手段でした710。生後1週間ごろからゴロゴロ音を出せるようになり、視覚や聴覚が未発達な子猫が母猫に「ここにいるよ！」と伝えてお乳をもらうために使われます10。母猫も赤ちゃんのゴロゴロ音を聞くことで、お乳が出やすくなると言われています10。

要求を伝える特別な音

科学者たちは「おねだりのゴロゴロ音」と呼ばれる特殊なタイプのゴロゴロ音があることを発見しました2。この音は親しい人間から愛情や食べ物など、何かをもらう手段として使用され、「ニャー」と通常のゴロゴロ音の間のような音で、人間が自然に反応してしまう赤ちゃんの泣き声の周波数に非常に近いことが分かっています2。

ゴロゴロ音の驚くべき治癒効果

自然治癒力の向上

猫のゴロゴロ音には、けがの治癒を促進し、筋肉を修復して作り出し、鎮痛剤としても働く効果があると考えられています2。これにより、猫が犬に比べて手術後に早く回復し、合併症にもなりにくいことの説明にもなります2。実際、昔から猫は骨折をしても他の動物の3倍の速さで回復することが知られており、その原因はゴロゴロ音による振動が挙げられていました4。

骨密度の向上と骨折治療への応用

猫のゴロゴロ音は約25～50ヘルツの低周波で、この周波数は骨の細胞を活性化させ骨密度を高める効果があります46。ニューヨーク州立大学工学部クリントン・ルービン博士の研究によると、猫のゴロゴロ音の響きが骨折を治し、骨を強化していることが明らかになっています13。

この発見は医療分野にも応用され、猫のゴロゴロ音の周波数からヒントを得た「超音波骨折治療法」が開発されました4。サッカーのベッカム選手や野球の松井秀喜選手が骨折治療の際に用いて驚きの回復を見せたことで注目を集めました4。

人間への健康効果：科学的に証明された癒しの力

メンタル面での効果

猫のゴロゴロ音の25ヘルツの低周波には、副交感神経を優位にする働きがあります45。副交感神経が優位になるとリラックスした状態になり、体の緊張をほぐす効果があります5。また、低周波には別名「ハッピーホルモン」とも呼ばれるセロトニンの分泌を促し、幸せな気分にする効果もあります5。

ゴロゴロ音の低くて細かい振動を伴う周波数には、人の血圧を下げたり、不安を和らげたり、ストレスをなだめたりする強い効果があるため、免疫力や自然治癒力を高める副作用のない薬とまで言われています49。

心拍数への影響

筑波大学の研究チームによる実験では、ストレスがかかった状態の人にホワイトノイズと猫のゴロゴロ音をそれぞれ聞かせて心拍数を測定しました14。その結果、ホワイトノイズを聞かせたグループの心拍数は基準値と変わりませんでしたが、ゴロゴロ音を聞かせたグループは心拍数が減少しました14。興味深いことに、この効果は参加者が猫好きかどうかに関係なく現れました14。

循環器疾患の予防効果

ミネソタ大学脳卒中センターが行った長期研究では、猫の飼い主は猫を飼っていない人に比べて循環器疾患で亡くなるケースが少ないことがわかっており、ゴロゴロ音に接していることがその一因なのではないかという声もあります2。

医療現場での応用：ゴロゴロセラピーの実践

フランスでの医療応用

フランスでは「ゴロゴロセラピー」（現地では「ロンロンセラピー」）が医療に取り入れられています4。理学療法士によって人の骨折の治療にも活用されており、その効果が実証されています5。

日本での取り組み

日本でもセラピーキャットが医療や介護の現場で活躍し始めています4。ゴロゴロ音効果だけでなく、「猫のように好き勝手にしたいな。自由にしたいな。」と憧れたり、自己投影したりすることで、がんじがらめになって病んでしまった人たちを癒しています4。また、「逆セラピー」といって猫の世話をすることによって患者の癒しにつながることもあり、癒し癒される関係になることで感情の交流が生まれ、回復や治癒につながるケースも少なくありません4。

ゴロゴロ音を出さない猫もいる

すべての猫がゴロゴロ音を出すわけではありません12。猫にも個体差があり、ゴロゴロ音をまったく出さない子もいます12。性格や成長過程の環境などが影響していると考えられています12。また、どの猫も、のどの鳴らし方、鳴らす大きさが異なり、ほとんど無音でのどを鳴らす猫もいれば、英国のマーリンという猫のように67.8デシベル（電気掃除機とほぼ同じ大きさ）という世界記録を持つ猫もいます2。

野生の猫は飼い猫に比べてのどを鳴らさない傾向があるため、捕食動物に気付かれることがないよう、野良の母猫は子猫たちにのどを鳴らさないように教えているのではないかという説もあります2。

まとめ

猫のゴロゴロ音は、単なる満足の表現を超えた、生物学的に非常に高度なシステムであることが明らかになりました。自分自身の治癒を促進し、ストレスを軽減し、さらには人間にまで健康効果をもたらすこの神秘的な音は、まさに自然が生み出した「天然の治療薬」と言えるでしょう。

愛猫がゴロゴロと喉を鳴らしているとき、それは単に機嫌が良いだけでなく、自分自身をケアし、同時に私たち人間をも癒してくれているのです。この小さな音に込められた深い意味を理解することで、猫との絆はさらに深まり、お互いにとってより良い関係を築くことができるでしょう。